願い事ひとつ−ねがいごとひとつ こんな時間にまだ起きていたのか。 早寝早起きの健康な野球少年的には深夜帯であろう時間に村田の部屋をノックしたのは この国の王であり親友の、悩める少年渋谷有利。 「なぁ、村田って告白した事あるか?」 必死の面持ちで問う言葉が彼の悩みの一端を示している。 「ようやくフォンビーレフェルト卿に告白する気になったの?」 「……なんで分かるんだよ」 「他に誰がいるの」 「クラスの女の子かも知れないだろ」 「あれだけ可愛い婚約者がいたら今更クラスの女子にときめけない気がする」 「そりゃ確かにヴォルフは世界中の誰よりも可愛いよ」 そこまでは言ってないだろ。 臆面も無くのろけてくれた親友にすかさずツッコミを入れようとするが、 「でも別におれはヴォルフの顔だけが好きな訳じゃないからな」 あまりに真面目に言われてしまっては野暮な事は言いにくい。結局行き場を無くした 相の手は大人しく引っ込める事にした。好きな相手に毎晩夜這いにいくあの男前っぷりは 確かに尊敬に値すると思う。 「ほんとなんでおれなんかの婚約者やってくれてるんだろ」 そして不安そうにこちらに問いかけてきた有利の質問内容は、正直なぜそれが分から ないのか首を傾げる所だ。 「渋谷の事が好きだからだろ」 「そう、かな……?」 恋とはかくも人を臆病にするものか。 フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムが第27代魔王陛下に首ったけだという事を疑うもの など血盟城にはいない。けれども、おそらくその可愛くて男前な婚約者のハートが自分に 向いているのか当の本人は疑っているという。 ヴォルフラムのアピール不足という事は考えにくいので、ここはただ単純に魔王陛下の 経験不足を指摘したい。 「僕に聞いても仕方ないじゃないか。気になるなら本人に直接聞いてみたらいいだろ」 「う……まぁそうなんだけど」 「ほら、フォンビーレフェルト卿の所へ行った行った。そろそろ彼が渋谷の部屋に 夜這い掛けにくる時間じゃないの、ちゃんと戻って待ってなきゃダメだろ」 「そうじゃなくてさ、おれの方からも何かしたいっていうか」 「すればいいじゃない。喜ぶよ」 「だから何をしていいか分かんないんだって」 同じようなやりとりをしばらく繰り返した結果、村田は判断した。 適任は他にいるはずだ。 「で、俺にお鉢が回ってきた訳ですね」 村田から事情を聞かされたコンラートは、できればあまりこちらに振らずに当事者内で 収めてほしかった話だと軽く息を吐く。 「ま、可愛い弟の幸せのためにちょっと協力してあげてよ、ウェラー卿」 「えぇ、まぁ、ヴォルフのためならできることはさせて頂きますが…」 頼んだよ、と軽く手を振ってコンラッドの部屋から去って行った村田がとびきり目上の お方でなければ首根っこ掴んで引き留めたい所だ。押しつけられた感は否めない。 しかし託されてしまったものは仕方ないと、緊張した面持ちの有利に視線を向ける。 告白の仕方など問われても、それは人それぞれとしか言いようが無い。まして、自分の 助言を入れた告白で弟を口説こうなどとは。これが有利でなければ即刻お帰り願う所だ。 「好きな相手に好きだと告げるのに他人の力を借りようとする男に大切な弟を任せるのは ちょっと覚悟が要りますね……」 「でっ、ですよねコンラートさん」 素直に顔をしかめてやると、もっともだと思ったのか有利がこくこくと首を上下させる。 「でもこういうのはあんたの得意ジャンルだろ?」 いつから自分は有利の中でそんな立ち位置になってしまったのか。 助けを求めるようにヨザックに視線を向けるが、どうから彼はこの状況を面白がっている らしく助け船を寄越してくれるつもりはなさそうだ。薄情者、と睨みつけてやるが、彼は 意に介した様子もなく唇の端を上げる。 「長話になるならオレは先にシャワー浴びてきますねー」 「おい、ヨザ」 「可愛い弟と名付け子の恋路なんですから素直に応援してやったらいいじゃないですか。 他の奴に取られるより余程マシでしょうに」 「それはそうだが…」 じゃ、と手をひらひらと振って口笛を吹きながら浴室へ向かってしまった薄情な恋人を 恨めしげに見送る。 そんな事くらい分かってるんだ。 「いいだろコンラッド、あんたにはもうヨザックがいるじゃん、ヴォルフはおれに譲ってくれよ」 「それをヴォルフに直接言えばいいだけの話なんですよ、ユーリ」 「それができないからあんたに聞いてるんだろ」 ヴォルフを目の前にするとどきどきしちゃって何を言うつもりだったか全部吹っ飛んじゃって… と可愛らしい悩みを打ち明けてくれた名付け子を、応援してやりたくはある。 まして弟も彼に惚れ抜いている事くらい端から見ても明らかだ。 さてどうしたものかと次の言葉に迷う。 弟のためだ。 「難しく考える事はありませんよ。思ってる事をそのまま伝えればいいんです。一言、好きだ、と」 「いや、でも」 「好き、ですよ。ユーリ」 「それが言えたら相談になんて来てないんだって」 「簡単な一言ですよ、ほら、言ってみて下さい」「………」 その時聞き覚えのある足音が近付いてきて、コンラッドは心底ほっとした。ヴォルフラムだ。 おそらく就寝時間になっても有利が部屋に戻らないから探しにきたのだろう。 「……好き」 「おいコンラート、ユーリを見なかったか」 コンラッドが促してからしばらく間がありつつも言われた通りに有利が告白を口にしたのと ヴォルフラムが無遠慮に扉を開けたのが、ほぼ同時。 有利の目とヴォルフラムの目がぴたりと合う。 ユーリがここにいる事に気づいていなかったらしい弟が驚きに目を見開き、同じく ヴォルフラムが近づいている事に気づいていなかったらしい有利が思わぬ事に耳を赤くした。 「ヴォ……ヴォルフっ!? なんでここに」 「ユーリ……」 おそらく今の魔王陛下の言葉はきちんと弟の耳に届いたはずだ。これで一件落着だろう。 なんとなく寂しい気持ちに駆られつつもコンラッドは安堵の息をつく。 だが、その読みは甘かった。 「ユーリ、お前よりによってコンラートと!!」 次の瞬間部屋に響いたのはヴォルフラムの怒鳴り声。 そうか、これがヴォルフラムに対する告白だと最初から事情を聞いていた自分には明らか だが、途中からその言葉だけを聞かされた弟には分かり難い。 「え、ちょっと待てよヴォルフ。違うって!!」 「ならわざわざコンラートの部屋まで行って二人きりでひそひそと何を話していたんだ」 「え、いや、それは…」 有利が答えられずにちらりとコンラッドに視線を向けた。 分かる、確かに何をしていたのかと問われても答えがたい気持ちは理解する。だが何も ここで口ごもらなくても。 「ヴォルフ、ユーリの話を聞いて……」 「部屋に行ってもいないから探しにきてみれば!! お前は僕よりコンラートの方がいいのか、 この浮気者っ!!」 「ヴォルフ!!」 人の話など遮ってとんでもない誤解をしたまま走り去ったヴォルフラムを追いかけたいのは 山々だ。だがそれは話を余計ややこしくするような気がする。 弟を追いかけて部屋を飛び出した名づけ子の背中を目で追う。 相思相愛なのは間違いないのだから、きっと大丈夫だろう。きっと。 いつも賑やかな2人が行ってしまうと部屋の中が急に静かになった。どっと疲れてソファに 座り込んでいると、しばらくしてようやく姿を現した幼馴染に苦笑された。 「あんた子供みたいな顔をしてますよ」 隣に腰掛けて髪を拭きながらコンラッドの腕を引いた彼の力に従って寄り掛かる。 「ヴォルフは小さい頃俺のお嫁さんになるんだって言って聞かなかったんだ。俺が兄弟じゃ 結婚できないと答えると駄々を捏ねて…」 「えぇ。耳にたこができるほど聞かされました」弟はあんな昔の事など忘れているだろうに。 あやすように背中をぽんぽんと叩いてきたヨザックが呆れたようなため息を吐く。 「隊長のお嫁さん希望はもう一人いるんですけどねー」 「あぁ、そうだな」 とうに別の道を歩いている事くらい分かっている。 そう言って、コンラッドはお風呂上がりの髪からただよう香料に惹かれるように口づけた。 「なぁ、ヴォルフ……」 夜中にふと目を覚ましたヴォルフラムは、もう一度寝直そうとして自分を呼ぶ声に 気づき一旦やめた。 間違えようがない。隣に寝ているユーリが自分を呼ぶ声だ。 答えようとは思うのだが、先ほどの醜態を思い出すとそうもいかない。 有利は自分の事を少しは考えていてくれるのか煮え切らない態度しかみせないからよく 分からない。だが、少なくとも兄とどうこうという事は考えにくいし、まして兄が浮気なぞ するような男とは思えない。 怒って逃げ出して彼の制止も聞かず不貞寝してしまった自分を思うと彼の顔が見られる 訳が無い。そして何より目が開かない。彼とてこの時間自分が寝ている事くらい分かって いるだろう、仕方ない、明日の朝何の用事だったか聞けばいい。どうせ自分の嫉妬など 彼にとってはいつもの事で気にする程の事ではないのだろう。こうやって平然と自分の 隣に寝ているのだから。 「寝てるよな、ヴォルフ…」 あぁ寝ている。 声なき声で返事をしたヴォルフラムの頬に何か暖かいものが触れる。おそらく有利の指だ。 自分が寝ているかどうか確認しているのだろう、彼の視線を感じた。 しかし彼の問いかけは、自分が寝ている事を分かっている上でのものだ。 というより、自分が寝ていた方がいい、というような響きに感じられた。 まさかやはり自分が一度寝たらそうそう何があろうと起きないのをいい事に他の男の元へ 行こうとしているんじゃないだろうな。この浮気者。だいたい婚約者同士が一緒の寝台に 寝ているというのにこの優柔不断な魔王陛下ときたらいつまで経っても決着をつけよう ともしない。一体いつまで僕を待たせる気だこのへなちょこ。 「あのさ、ヴォルフ…」 こちらが眠っていると分かっているだろうに、有利は尚も話し掛けてくる。 今は返事ができないから明日にしてくれとさっきから何度も言っているのに伝わらない のだろうか。婚約者ならそれくらい察してくれてもいいだろうに。 「……やっぱなんでもない」 返事をしないヴォルフラムに結局話しかけるのを諦めたのか有利の指が離れる。 それだけは名残惜しい。 「…………」 そして指が離れる瞬間、有利の口が小さく何かを呟いた。聞こえるか聞こえないかの、 ほんの小さな声。ヴォルフラムが半分眠りながらもそれでも有利の声を聞こうと注意して いなければ聞こえなかっただろうその声を、だからヴォルフラムはしっかりと聞いた。 おれはヴォルフの事が好きだ。 勘違いなどであるはずがない。 極近い距離で、とびきりの思いを込め意を決して囁かれたその言葉は、愛しい婚約者が 眠る自分に向けたもの。 どうしてそれを僕が起きている時に言えないんだこのへなちょこ。 どさりと有利が寝台に寝そべる音がして、おやすみヴォルフ、と、最後に優しい声がした。 僕はこのへなちょこが好きなんだ。 だから仕方ない。 あとどれくらい待たせる気か知らないが、いつまででも待ってやる。 吉田氏のピンク部屋に寄付していただいた、瀬高氏による誕生日お祝いSS!!! つ、つまりアレですよね、私が頂戴しちゃってよろしいのですわよね!?(日本語変です) ユヴォルでコンヨザな甘ラブストーリー!! ヨザに助けを求める次男の目線が…き、気になるっ///(笑) っていうか普っっ通に次男の部屋でシャワー浴びてるヨザに感動だよ!! 流石瀬高さんチのSSだ!!(笑) ユーリに「好き、ですよ」って促してる台詞とか、絶対無駄に色気帯てるよこの次男!!(笑) そして「この浮気物っ!!」って胸倉つかみに行くどころか走って逃げ出しちゃうヴォルフ可愛い…/// よほどショックだったんだね、男の子だから涙浮かべてたの見られたくなかったのかなv 不貞寝するしか涙隠す方法がなかったんだねvv かわいいなぁvv(涙表記はありません) ユーリのへなちょこっぷりもたまらなく萌えなのですが、半分眠りかけヴォルフの男前っぷりがヤバイ。 今のへなちょこの精一杯の告白を聞いて、真っ赤になって眠気が吹っ飛ぶのではなく、 物凄く暖かくて穏やかな表情になってそうなヴォルフヤバイ。 寧ろ私がときめいたわ!!(笑) しかし、「隊長のお嫁さん希望はもう一人」って台詞が本気でかわゆくて仕方ない。 瀬高様vv 素敵なSSをありがとう御座いましたvvvv |