2.

「末葉ねえ、ご飯!」
「お腹すいたなぁ……」

花ちゃんや亜貴斗くんだけじゃなく、周囲にいた子供たちからも食事を催促する声が上がる。
そういえば、オレもお腹が減っているかも。

「はいはい。それじゃあ、お昼の準備するから、みんな手伝って」
「「「はーい」」」

元気の良い返事をして、立ち上がった子供たちはすぐに部屋を出て行く。
釣られてオレも立ち上がり、伺うように末葉ちゃんを見つめる。

「折角だから一太郎くんも、お昼食べていってね」
「え、いいの?」
「もちろん、大歓迎。お昼は大勢で食べた方がおいしいもの。準備が出来たら呼びにくるから、ゆっくりしていてね」

そう言って、末葉ちゃんも部屋を出て行った。
オレも手伝った方がいいんじゃないかと思うけど、あの大人数で手伝っているのだからオレが行っても邪魔かな、と思い直す。
それにしても、どうなっているんだろう。
子供たちや末葉ちゃんの明るさは、とてもじゃないけど人を殺した人間だとは思えない。
那智の妙なテンションの明るさとは違って、真っ当な明るさなのだ。それこそ、ごくごく普通の女の子。
本当に訳がわからない。
考え込んでいたオレは、不意に人の気配を感じて顔を上げた。

「………よう」

末葉ちゃんたちが出て行ったドアとは別のドアの前に、大和が立っていた。
笑顔を浮かべようとして失敗した、妙な表情をしている。

「悪かったな、那智と蓮李が勝手な真似したみたいで」
「あ、や、その!オレが勝手に気絶しただけだし……!」

急に謝られたから、びっくりして首を横に振った。
悪いのは脅しまくった那智だと思うし。本当に殺す気がなかったのか今でも疑わしいけど。
大和はオレに近寄ろうとはしないで、ドアに背中を預けるようにして立っている。
同い年ぐらいだろうに、オレとは比べ物にならないくらいの落ち着きと威厳。
こういうの場数が違うっていうのかな?

「那智の馬鹿もそうだけど………あんなもんまで見せちまったから」
「え?」
「人が人殺すとこなんて、見たくなかっただろ」
「あっ………」
「ごめんな。そりゃ、怖いだろうし気分も悪くなるよな。気絶して当たり前だ」

まさか、そんなことを謝られるとは思ってもみなかった。
坎陥区の血も涙もない殺人鬼かと思っていたけど、どうも勝手が違うみたい。
人を殺してるんだからそんなことは有り得ないんだけど………悪い人じゃないのかな?

「何か理由があったの?」

無意識に口が動いていた。
訝しげにこちらを見る大和に、自分自身で戸惑いながらも再び口を開いた。

「いや、あの男の人を殺したのに理由があったのかなって………」

理由がある気がした。
もしかすると男はとんでもない悪党だったのかもしれない。
そうじゃなきゃ、目の前に立つこの人が人を殺したなんて信じられなかった。
オレの質問に大和は困ったように笑う。

「どんな理由があったって、人を殺して赦される理由なんてないだろ」

眉を寄せて浮かべる苦笑は、何故かこちらまで苦しくなるようなものだった。
そして、大和という少年は自分よりもまともだった。
だってオレは、何をどうしても許せないような理由があれば、人を殺したってしょうがないと……赦されると思っていたから。
何か言わなきゃいけない気がして、オレは大和を見つめるけど、大和はオレから目を逸らしてしまう。

「昼メシ食ってくんだろ?終わったら、声掛けてくれ。あんたを行きたいとこまで送ってくから」
「え!?そんな、送ってってもらうなんて悪いよっ」
「キメラが出て、あんた対処出来るか?」
「お願いします」

深々と頭を下げて、即答した。
逃げ足には自信があるけど、流石に相手が動物では逃げ切れるとは思えない。

「くっ……はははっ」

笑い声が聞こえて顔を上げると、大和が笑っていた。
笑うと鋭かった目付きが柔らかくなり、少年らしさが際立つ。オレと同じ年頃の少年なんだって、漸く納得出来た。

「面白いな、あんた。………また後でな、タロ」

そう言って、大和は軽く手を上げて部屋から出て行った。
っていうか、完璧にタロで浸透してるんですけどオレの名前。
元凶が誰なのかは分かっているが、とっちめることは出来ない。
相手は一太郎が出逢った女性の中で、初めて怖いと思った子だから。

「随分と楽しそうに話してたな、タロ」

元凶の声が背後から聞こえた。
振り返ると、赤毛の少女が向かって歩いてきた。

「な、那智っ!?」
「な……なんで怯えてんだよ!まだ、なんにもしてないだろ!!」

反射的に壁に張り付いて逃げ道を探すと、那智が口をへの字にしてオレを見る。

「口止めは本当だけど、殺すっていうのは冗談だ!からかおうとしただけなのに気絶することないだろっ!!」

ぎゃんぎゃんと怒鳴っているけど不思議と迫力がない。なんだか、牙を抜かれたライオンみたい。
よく見ると、白目の部分が赤く充血している。
まさか、泣いた?
オレの予想はその後の那智の台詞で真実だったと知る。

「タロが気絶するから、蓮李と二人で縹にお仕置きされたんだからな!!」

縹って、那智の頭に容赦なく拳固を落とした眼鏡の人だよね。
蓮李君と那智に説教でもしたのだろうか。

「お仕置きって?」

オレと同い年ぐらいの少年少女にするお仕置きが思いつかない。
那智はオレの質問には答えなかったけど、目を泳がせてお尻に手を当てた。
まさか……お尻叩きなんてことはないよね?


2009/11/1

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