森の中には湖があった。
その湖は澄んでいて、底まで見えている。
湖には生き物が住んでいない。
ただ居るのは、一人の吟遊詩人。湖の麓で竪琴を弾いている。
名をルシフェルと言った。
ルシフェルはいつも湖の麓で竪琴を弾いていた。悲しくも儚い旋律。森のどこか で響く音に合わせたりもした。
「ルシフェル」
呼ぶ声に目をやる。三角帽子を被った小人が、持っている竪琴をポロンと鳴らし た。
ルシフェルは屈む。すると小人は言った。
「止めた方が良いよ」
ルシフェルは小人の言葉に耳を貸さなかった。
右手を湖に入れた。
するとどうだろう。メキ、という音がして、何かぬるぬるとした物の中にいる。
ルシフェルは手を抜いた。見てみると、右手は赤く染まっていた。
「だから止めた方が良かったのに」
小人は言う。その通りだった。
「この湖はアスカのどこかに繋がっている。建物の中、森の中、君が触ったのは 天井のようだね」
ルシフェルは右手が固まっていくのを感じた。そして赤い層がぱりぱりと音を立 て剥がれ落ちた。
「行ったのが森の中じゃなくて良かったね。下手をしたら手首から切り落とされ たかも知れない」
小人はポロンと竪琴を鳴らす。
「私は死なない」
ルシフェルが、初めてぽつりと呟いた。
「君は天使だから」
小人も頷く。
「じゃあ僕は行くね。もし君が湖を通してアスカに行ったとしても、僕はそれを 語るだけだから」
小人はポロンと竪琴を鳴らした。
「精々蟠の様な達の悪いバウムに会わないことだね」
ルシフェルの返事も無しに小人は立ち去った。

ルシフェルは竪琴を鳴らす。

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